驚きの機能や天然ライクな素材など、ファッションの分野においても昨今のテクノロジーの発展には目を見張るものがある。ただ、18世紀頃までテクノロジーとは、リベラル・アーツの中での技芸や工芸を意味していたという。メカニカルで科学的な分野の専門知識を指すようになったのは、産業革命以降。そして、19世紀の英国ヴィクトリア朝時代に現代のスタイルにつながる発明がいくつも誕生した。製造分野においてはミシンの発明が大量生産の足がかりとなり、印刷技術の発展により情報を伝えるメディアも誕生。最先端モードが身近な存在となり、ファッションを誰もが享受できるようになった。物事がスムーズに、便利になる世の中を鑑みれば、手仕事を非合理的と断じる人だっているかもしれない。ただ、〈NOMA t.d〉へ別注した刺繍入りのデニムシャツを見るにつけ、完全に賛同できない想いもフツフツと湧いてくる。胸へ大胆に落とし込んだ刺繍は、あらゆる場所でアートワークの展示を行ってきたブランドの、膨大なデザインアーカイブからチョイスされたもの。手作業による刺繍は、マシンでは表現しきれない風情を湛える。心持ちはアロハシャツのように気楽に向き合えるが、いざ袖を通すとどこか品も感じさせるから不思議だ。今やテクノロジーは新たなフェーズへと移行し、地球や個々にとって価値のある持続可能なものを作るべく研究が進んでいる。それも有益ではあるが、おおよそAIやロボット技術では表現しきれない、テクノロジーの根本である手仕事ならではの風合いや風情もまた、大切にしていきたいもの。この一着からは、そんな未来に向けたメッセージも透けて見える。