“繊維の宝石”と呼ばれる素材がある。そう、カシミヤだ。肌触りが良く軽量で保温性に富み、そのうえ放たれる光沢によりその姿は実にエレガンス。原料はインド北部のカシミール地方に生息する、カシミヤ山羊の毛のさらに内側にある産毛で大変希少。現在では、内モンゴル自治区に生息するカシミヤ山羊が、より繊維が長く細い上質な毛を持つとされている。とはいえ、もともとは現地人の身近な必需品だったわけだが、その地位を押し上げたのはやはりヨーロッパに持ち込まれてからだろう。英国では王侯貴族の間で人気を博し、一説ではナポレオンⅠ世が、1798年のエジプト遠征時に妻、ジョセ・フィーヌへの贈り物として持ち帰ったとも。それをえらく気に入った彼女は、当時のファッションリーダーだっただけに多くの耳目を集めたことだろう。王族貴族の必需品だったことを考えれば、その恩恵をすぐにでも得られる我々は実に幸運。例えば、このHERILLのカーディガン。デザイナーを務める大島裕幸氏は、技術と経験に長けた国内の老舗ファクトリーと手を取り合った素材開発に余念がないことで知られる。こちらも同様で、程よいぬめり感としっとりとしたタッチ、そしてほのめかす光沢は冒頭の表現に恥じぬ佇まい。それでいて、ゆったりとしたシルエットと適度な肉厚さからカジュアルな一面も併せ持つ。常日頃からジュエリーのごとく身に付けたい、そう思わせる一着なのだ。